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ウェットフードと病気の研究。膀胱炎と糖尿病について分かっている範囲

公開

「猫にはウェットフードのほうがいい」という話の根拠として、膀胱炎や糖尿病の研究がよく引かれます。この記事では、その研究を一つずつ読み、何が分かっていて何が分かっていないかを整理します。先に結論を書くと、病気のある猫でウェットの再発が少なかったという報告は1つありますが、研究の設計に弱さがあります。健康な猫がウェットを食べると病気になりにくいかどうかは、調べられていません。この記事は研究の紹介だけを目的にしているので、商品の紹介やお店へのリンクは置いていません。ウェットフードの水分と費用の話は、別の記事「ウェットフードと水分」に書いています。

食事の水分で尿が薄くなることは、確かめられている

前提として確かめられている事実を先に書きます。Buckley らは、1種類のドライフードに水を加えて水分を6%から73%まで4段階に変え、6頭の健康な成猫に3週間ずつ食べさせました。水分の多いフードを食べた猫は自分で飲む水を減らしましたが、合計の水分摂取量は73%のフードでいちばん多くなり、尿が薄くなりました。尿中のシュウ酸カルシウムの過飽和度(結晶ができやすさの指標)も低くなりました1。

これは健康な猫の尿の性質を調べた研究で、病気の発生を追ったものではありません。「尿が薄くなる」ことと「病気が減る」ことは、別の問いです。

膀胱炎の再発を追った研究は1つだけで、条件に弱さがある

猫の下部尿路疾患(膀胱や尿道の病気の総称)のうち、原因が分からないものを特発性膀胱炎と呼びます。Markwell らは、特発性膀胱炎の猫54頭に、同じ目的で作られた市販のウェットとドライを1年間与え、再発を比べました。ウェットの群では18頭のうち2頭(11%)、ドライの群では28頭のうち11頭(39%)に再発がありました2。この研究にはペットフードメーカー(ウォルサム)の研究者が参加しています。

特発性膀胱炎の猫で、1年以内に再発した割合
ウェットの群11%2/18頭
ドライの群39%11/28頭

無作為化されていない小規模の研究。8頭は途中で追跡できなくなっている。出典: Markwell ら 1999

この結果はよく引用されますが、読むときに注意が必要です。猫をどちらの群にするかは無作為に決められておらず、8頭は途中で追跡できなくなっています。研究の規模も小さいものです。再発を減らす可能性を示した報告ではあるものの、確かな証明とは言えません。その後、ウェットとドライを直接比べ直した無作為化試験は、この記事を書いた時点では見つかっていません。また、これは病気のある猫を対象にした研究です。健康な猫がウェットを食べると膀胱炎になりにくいかどうかは、調べられていません。

病気の治療や食事の指示が必要な猫については、この記事ではなく、かかりつけの獣医師の判断に従ってください。

ドライフードと糖尿病の関係は、結論が出ていない

スウェーデンの Öhlund らは、糖尿病の猫396頭と健康な猫1,670頭の飼い主にアンケートを取り、生活や食事を比べました。飼い主が「体重は普通」と答えた猫では、主にドライフードを食べていた猫の糖尿病のオッズ比(起こりやすさの比)が3.8倍でした。室内飼い、がつがつ食べる傾向、太っていることも糖尿病と関係していました3。

ただし、この研究は飼い主の記憶にもとづくアンケートで、因果関係を示すものではありません。著者も「さらに調べる価値がある」という書き方をしています。Verbrugghe と Hesta の総説は、健康な猫で炭水化物が糖尿病を起こすという説は十分に示されておらず、糖尿病の主な危険因子は肥満と運動不足だと整理しています4。「ドライを食べると糖尿病になる」とは言えず、「体重を適正に保つことがいちばん大切」というのが、今の研究から言える範囲です。

研究を読むときの物差し

この記事で扱った研究を、確かさの順に並べると次のようになります。

  1. 同じフードの水分だけを変えた実験(Buckley ら)。健康な猫の尿が薄くなることは、再現性のある事実と見てよい。
  2. 病気の猫を追った臨床研究(Markwell ら)。無作為化されておらず、規模も小さい。可能性を示す段階。
  3. 飼い主へのアンケート(Öhlund ら)。関係は見えるが、原因と結果の向きは分からない。

「ウェットは病気になりにくい」という言い方は、1 の事実から 2 と 3 を飛び越えて結論を出しています。研究が示しているのは、そこまでではありません。

まとめ

  • 食事の水分を増やすと尿が薄くなることは、研究で確かめられている。
  • 特発性膀胱炎の猫でウェットの再発が少なかったという報告は1つあるが、無作為化されておらず規模も小さい。健康な猫での予防効果は調べられていない。
  • ドライと糖尿病の関係はアンケート研究で見えただけで、結論は出ていない。体重を適正に保つことが、研究から言える最も確かなこと。
  • 病気のある猫の食事は、かかりつけの獣医師の指示に従う。

この記事は、猫の食事について調べたことを書いたもので、獣医師の診断や助言の代わりにはなりません。尿の異常や病気のある猫については、かかりつけの獣医師に相談してください。

参考文献

  1. Buckley CMF, Hawthorne A, Colyer A, Stevenson AE. Effect of dietary water intake on urinary output, specific gravity and relative supersaturation for calcium oxalate and struvite in the cat. British Journal of Nutrition. 2011;106(S1):S128-S130. https://doi.org/10.1017/S0007114511001875
  2. Markwell PJ, Buffington CA, Chew DJ, et al. Clinical evaluation of commercially available urinary acidification diets in the management of idiopathic cystitis in cats. Journal of the American Veterinary Medical Association. 1999;214(3):361-365. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10023397/
  3. Öhlund M, Egenvall A, Fall T, et al. Environmental risk factors for diabetes mellitus in cats. Journal of Veterinary Internal Medicine. 2017;31(1):29-35. https://doi.org/10.1111/jvim.14618
  4. Verbrugghe A, Hesta M. Cats and carbohydrates: the carnivore fantasy? Veterinary Sciences. 2017;4(4):55. https://doi.org/10.3390/vetsci4040055