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猫の食事で大切なこと。総合栄養食と一般食の違い、1日のカロリー、水について分かっている範囲

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猫のフードは種類も値段の幅も広く、「何を基準に選べばいいのか」が分かりにくいものです。この記事では、宣伝の言葉ではなく、査読のある論文と公的な栄養指針を出典にして、猫の食事について分かっていることを整理します。結論を先に書くと、はっきり言えるのは次の3つです。「総合栄養食」と表示されたフードを主食にすること。食べる量をエネルギー(kcal)で管理すること。水をいつでも飲めるようにすること。この3つは値段の高いフードでなくても実現できます。

猫は「真性肉食動物」である

猫は、犬や人と違って、肉を食べないと生きていけない動物です。獣医栄養学ではこれを真性肉食動物(obligate carnivore)と呼びます。体の中で作れない栄養素が多く、その代表がタウリン、アルギニン、アラキドン酸、ビタミンA、ナイアシンです1。たとえばビタミンAは、人なら植物のβカロテンから作れますが、猫は作れません。動物の組織から直接とる必要があります。

このことがはっきり分かった出来事が、1987年のタウリンの研究です。市販のフードでタウリンが足りず、猫の拡張型心筋症(心臓の筋肉が伸びて薄くなる病気)が多発していました。Pion らが原因をタウリン不足と特定し、Science 誌に発表しました2。その後、市販フードにタウリンが十分に加えられるようになり、この病気は猫ではまれになりました。この歴史は、「必要な栄養が設計どおり入っていること」がどれほど大切かを示しています。

猫が自分で選ぶ栄養のバランスも調べられています。Hewson-Hughes らは、成猫にたんぱく質・脂質・炭水化物の割合が違うフードを自由に選ばせました。猫はエネルギーの約52%をたんぱく質、36%を脂質、12%を炭水化物からとる組み合わせに落ち着きました3。炭水化物の摂取には上限があり、炭水化物の多いフードでは、たんぱく質と脂質が足りなくなっても炭水化物をそれ以上は食べませんでした。この結果は、猫が今も捕食者としての食性を保っていることを示しています。ただし、これは「猫が選ぶ割合」であり、「健康のために最適な割合」が証明されたわけではありません。

成猫が自分で選んだ、エネルギーのとり方の割合
たんぱく質52%
脂質36%
炭水化物12%

フードを自由に選ばせたときに落ち着いた組み合わせ。健康に最適な割合を示すものではない。出典: Hewson-Hughes ら 2011

「総合栄養食」の表示が、必須栄養素をまとめて保証する

必須栄養素を一つひとつ確かめるのは、飼い主にはむずかしい作業です。日本では、その代わりになる表示があります。「総合栄養食」です。ペットフード公正取引協議会の公正競争規約では、総合栄養食は「そのフードと水だけで、表示された成長段階の健康を維持できる栄養バランスのもの」と定められています4。基準は AAFCO(米国飼料検査官協会)の栄養基準がもとになっています。パッケージには、対象の成長段階(成猫用、全成長段階など)と、基準を満たすことを「分析試験」で確かめたか「給与試験」で確かめたかが書かれています。給与試験は実際に猫に食べさせて確かめる方法で、手間がかかるぶん確かさも高いとされます。

欧州のペットフード工業会(FEDIAF)の栄養指針では、成猫のたんぱく質の最低推奨量は、水分を除いた乾物100gあたり25.0g です。運動量の少ない猫を想定した計算では33.3g になります5。タウリンはドライで乾物100gあたり0.10g、ウェットで0.20g です。ウェットのほうが多いのは、加熱殺菌の工程で失われやすいためです。総合栄養食の表示があるフードは、これらの基準を満たすように設計されています。

逆に、「一般食」「副食」「おかず」と書かれたウェットフードやおやつは、それだけでは栄養が足りません。総合栄養食と組み合わせて与えるものです。このサイトでは、総合栄養食のドライとウェットだけに「1日あたりの費用」を出し、一般食には出していません。表示の区分が違うものを同じ物差しで比べないためです。

総合栄養食のドライフードは、値段の幅が広いカテゴリです。下に挙げたのは、このサイトで比べている中から、大手メーカーの成猫用と、輸入のものを選んだ例です。どれも総合栄養食の表示があります。価格は毎朝更新され、1日あたりの費用は体重4kgの成猫が1日180kcalを食べる前提で計算しています。

値段の差は、原材料の違い、製造国、流通のしくみなどで生まれます。ただ、「高いほど猫の健康に良い」ことを示した研究は、この記事を書いた時点では見つかっていません。総合栄養食の表示がある限り、必須栄養素の基準はどれも満たしているはずです。ここに挙げた商品は値段の幅を示す例で、特定の商品を勧めるものではありません。

食べる量は、グラムではなく kcal で考える

猫の肥満は、食べたエネルギーが使うエネルギーを上回ることで起きます。Verbrugghe と Hesta の総説は、「炭水化物が肥満や糖尿病を起こす」という説は健康な猫では十分に示されておらず、肥満の主な原因は食べるエネルギーの量だと整理しています6。

成猫が1日に必要なエネルギーの目安は、FEDIAF の指針に表があります。避妊・去勢済みや室内飼いの成猫では、体重(kg)の0.67乗あたり約52〜75kcal です5。体重4kgの猫なら、おおよそ130〜190kcal になります。このサイトの「1日あたりの費用」は、その上限寄りの180kcal を使っています。活動量の多い猫や、未去勢の若い猫では、これより多く必要です。

ドライフード100gあたりのエネルギー(kcal)の幅
いちばん低い327kcal
低い方から4分の1365kcal
真ん中382kcal
高い方から4分の1405kcal
いちばん高い525kcal

このサイトで比べているドライフード175商品の表示値(表示のない商品は成分値からの推定)

ここで大切なのは、フードによって100gあたりのエネルギー(kcal)が大きく違うことです。同じ「1日50g」でも、kcal の高いフードなら食べ過ぎになり、低いフードなら足りないことがあります。パッケージの給与量の表は kcal を踏まえて作られているので、そこから始めるのが確実です。計量カップではなく、キッチンスケールで量ると誤差が減ります。

日本ではエネルギーの表示は義務ではありません。表示がないフードについて、このサイトは成分値から NRC(米国学術研究会議)2006年の式で推定し、推定であることを書いています。メーカーに問い合わせれば、たいてい教えてもらえます。

水はいつでも飲めるように

猫は、もともと乾いた土地で暮らしていた動物の子孫で、のどの渇きを感じにくく、水をあまり飲まない性質があります1。ドライフードの水分は10%前後、ウェットフードは75〜85%です。Buckley らの研究では、同じフードの水分を6%から73%まで変えて与えたところ、水分の多いフードを食べた猫は自分で飲む量を減らしましたが、合計の水分摂取量は増え、尿が薄くなりました7。この研究の詳しい内容は、ウェットフードと水分の記事に書いています。

ドライフードが主食の猫でも、水をいつでも新しく飲めるようにしておくことは、獣医師の団体の飼い方の解説でよく勧められています。水を飲める場所を複数つくっておくと安心です。

「グレインフリー」「ヒューマングレード」などの言葉について

フードの袋には、健康に良さそうな言葉がたくさん書かれています。ここでは、研究で何が分かっているかだけを書きます。

グレインフリー(穀物不使用) には、日本で決まった定義がありません。猫の健康上の利点を示した査読研究は、この記事を書いた時点では見つかっていません。猫の食物アレルギーの原因として報告が多いのは牛肉(18%)、魚(17%)、鶏肉(5%)で、小麦ととうもろこしは各4%でした(Mueller らの集計、78頭)8。穀物を抜くことがアレルギーの対策になるとは言えません。

猫の食物アレルギーの原因として報告された食材の割合
牛肉18%
魚17%
鶏肉5%
小麦4%
とうもろこし4%

1頭に複数の原因があることがあるため、合計は100%にならない。出典: Mueller ら 2016(78頭の集計)

一方で、米国 FDA が犬で調べた「グレインフリーと拡張型心筋症」の問題を、そのまま猫に当てはめる根拠もありません。FDA は2022年12月の更新で「食事との直接の関係は特定されていない」としています9。つまり、グレインフリーは良くも悪くもなく、「原材料に穀物の記載がない」という事実の分類です。このサイトのグレインフリーのドライフードの一覧も、その意味で分けています。

ヒューマングレード も日本に定義がなく、品質管理の主張であって、栄養上の利点を示すものではありません。高たんぱく は、日本の公正競争規約では、数値の根拠なしに「高」と書くことができません。このサイトでは乾物換算のたんぱく質を数字で並べています(たんぱく質が多い順の一覧)。

世界小動物獣医師会(WSAVA)の「フードの選び方」の指針は、「ホリスティック」「プレミアム」のような規制のない言葉は栄養の評価にほとんど役立たないとしています10。そのうえで、メーカーに次のことを聞くよう勧めています。栄養の専門家(動物栄養学の博士か、獣医栄養学の専門医)を雇っているか。品質管理を完成品の分析で確かめているか。査読のある学術誌に研究を発表しているか。ラベルでは、総合栄養食かどうか、どの成長段階向けか、カロリーがいくつかを確かめるよう勧めています。

手作り食と生食について分かっていること

「素材にこだわりたい」という気持ちから、手作り食や生食を選ぶ飼い主もいます。研究が示している事実は次のとおりです。

Wilson らは、獣医学の教科書、飼育書、ウェブサイトから猫の手作り食のレシピ114件を集めて調べました。成分を計算できた94件のほとんどで必須栄養素が不足していました。ほぼ基準を満たしたのは、獣医師が書いた5件だけで、それも1項目は不足していました11。手作りで総合栄養食と同じ水準を保つのは、専門家でもむずかしい作業です。

生肉や非加熱のフードには、細菌がいることがあります。FDA の2010〜2012年の調査では、生のペットフード196検体のうち15検体からサルモネラ、32検体からリステリア・モノサイトゲネスが見つかりました。ドライや半生のフードでは、ほぼ見つかりませんでした12。2023年以降は、鳥インフルエンザ(H5N1)に感染した猫の事例が、米国と韓国で生のフードや生乳に結びついて報告されています。FDA は2025年1月、生の鶏や牛を原料に使うフードの製造者に、H5N1 を食品安全計画の危害要因として扱うよう求めました13。米国獣医師会(AVMA)と米国疾病対策センター(CDC)は、生や加熱不足の肉を猫に与えないよう勧めています。

これらは「生食を選ぶ人を責める」ための事実ではありません。選ぶなら、栄養の設計と衛生の両方に、市販の総合栄養食より多くの手間がかかる、ということです。

まとめ

  • 猫は真性肉食動物で、タウリンなど体で作れない栄養素が多い。
  • 「総合栄養食」の表示があれば、必須栄養素の基準はまとめて満たされている。値段の高さとは別の話。
  • 食べる量は kcal で考える。目安は体重4kgの避妊・去勢済みの成猫で1日130〜190kcal。
  • 水はいつでも飲めるように。ウェットフードは水分のとり方の1つ。
  • グレインフリーやヒューマングレードは事実の分類であって、健康上の利点を示す研究はない。
  • 手作り食と生食は、栄養と衛生の両方で、市販の総合栄養食より多くの手間がかかる。

この記事は、猫の食事について調べたことを書いたもので、獣医師の診断や助言の代わりにはなりません。病気のある猫や、特別な食事の指示を受けている猫については、かかりつけの獣医師に相談してください。

参考文献

  1. Zoran DL. The carnivore connection to nutrition in cats. Journal of the American Veterinary Medical Association. 2002;221(11):1559-1567. https://doi.org/10.2460/javma.2002.221.1559
  2. Pion PD, Kittleson MD, Rogers QR, Morris JG. Myocardial failure in cats associated with low plasma taurine: a reversible cardiomyopathy. Science. 1987;237(4816):764-768. https://doi.org/10.1126/science.3616607
  3. Hewson-Hughes AK, Hewson-Hughes VL, Miller AT, et al. Geometric analysis of macronutrient selection in the adult domestic cat, Felis catus. Journal of Experimental Biology. 2011;214(6):1039-1051. https://doi.org/10.1242/jeb.049429
  4. ペットフード公正取引協議会. ペットフードの表示に関する公正競争規約・施行規則(2024年10月1日施行). https://pffta.org/
  5. FEDIAF(欧州ペットフード工業会). Nutritional Guidelines for Complete and Complementary Pet Food for Cats and Dogs. 2024年版. https://europeanpetfood.org/self-regulation/nutritional-guidelines/
  6. Verbrugghe A, Hesta M. Cats and carbohydrates: the carnivore fantasy? Veterinary Sciences. 2017;4(4):55. https://doi.org/10.3390/vetsci4040055
  7. Buckley CMF, Hawthorne A, Colyer A, Stevenson AE. Effect of dietary water intake on urinary output, specific gravity and relative supersaturation for calcium oxalate and struvite in the cat. British Journal of Nutrition. 2011;106(S1):S128-S130. https://doi.org/10.1017/S0007114511001875
  8. Mueller RS, Olivry T, Prélaud P. Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (2): common food allergen sources in dogs and cats. BMC Veterinary Research. 2016;12:9. https://doi.org/10.1186/s12917-016-0633-8
  9. U.S. Food and Drug Administration. FDA Investigation into Potential Link between Certain Diets and Canine Dilated Cardiomyopathy(2022年12月23日更新). https://www.fda.gov/animal-veterinary/outbreaks-and-advisories/fda-investigation-potential-link-between-certain-diets-and-canine-dilated-cardiomyopathy
  10. WSAVA Global Nutrition Committee. Selecting a pet food for your pet(2021年3月更新). https://wsava.org/global-guidelines/global-nutrition-guidelines/
  11. Wilson SA, Villaverde C, Fascetti AJ, Larsen JA. Evaluation of the nutritional adequacy of recipes for home-prepared maintenance diets for cats. Journal of the American Veterinary Medical Association. 2019;254(10):1172-1179. https://doi.org/10.2460/javma.254.10.1172
  12. Nemser SM, Doran T, Grabenstein M, et al. Investigation of Listeria, Salmonella, and toxigenic Escherichia coli in various pet foods. Foodborne Pathogens and Disease. 2014;11(9):706-709. https://doi.org/10.1089/fpd.2014.1748(全文は https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4152787/)
  13. U.S. Food and Drug Administration. FDA Requires Cat and Dog Food Manufacturers to Update Safety Plans for H5N1(2025年1月17日). https://www.fda.gov/animal-veterinary/cvm-updates/cat-and-dog-food-manufacturers-required-consider-h5n1-food-safety-plans

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